(議会提出時に、少し字句修正あり)
「川崎市成人ぜん息患者医療費助成条例」及び「川崎市小児ぜん息患者医療費支給条例」の廃止に反対すること に関する陳情
2023年6月14日提出 川崎から公害をなくす会
会長 神戸治夫
陳情の要旨
今も大気汚染と公害被害者が続出するなか、本市の公害被害者救済制度の歴史を無視し、ぜん息等の呼吸器疾患をアレルギ-の観点からのみにより、また公害患者・住民の意見さえも真摯に耳を傾けないで、一方的に、標記2つの条例を廃止することは断じて認められない。これは全市民のいのちに関わる問題である。
陳情の理由
第1、川崎市の公害被害者救済制度は、1970年に始まり以降約半世紀、被害者住民の闘いとその時々の国や市の意向・情勢と相まって連綿として続けられてきた。1972年4月発足の小児ぜん息患者医療費支給条例は、川崎区と幸区が国の公害病認定指定地域になったことに連動して始まったものであり、成人ぜん息患者医療費助成条例の前身のぜん息等4疾病医療費助成要綱は同認定指定地域解除に伴うものであって、いずれもその後拡充されてきた。現行の成人ぜん息患者医療費助成条例は、全市的な大気汚染の悪化により川崎・幸両区以外の患者救済のためと、丁度アレルギ-疾患対策基本法(2015年12月)が制定されたのに便乗して改正されたまでのものである。なお、ぜん息にはアレルギーを伴わないものもあることが知られており、だからこそ、同法でも環境基準達成など「大気汚染の防止」や環境改善のために、自治体の自主的・主体的施策の策定を規定しているのである。
第2、市長が、公害患者との面会を拒否しているとの報道がなされ詳細は知らないが、これは公害問題を絡めると条例廃止の策謀が出来なくなるからではないのか。しかし、市の文書からいくら「公害」をなくし「環境負荷」に変えてみても、また大気・水環境計画で市民意識の実感向上を図ろうとしても、公害の実態をそんな簡単に拭い去ることは出来ない。環境基準が達成されていると云っても、二酸化窒素については国の基準緩和に抗議して残した旧環境基準、市の現行の環境目標値(日0.02ppm)は全測定局で未だに達成できていない。PM2.5については、環境基準は甘いとして東京都のようにさらに低い目標値を掲げている自治体もある。一昨年、世界保健機関(WHO)は健康被害を防止するため、日本の基準に換算して二酸化窒素は日0.012ppmを、PM2.5は日15μg/m3というもっと厳しい数値を決めた。こうした中、市内のぜん息患者数は、2022年度には18,395人に上っている(市医師会による10月1か月間の調査)。
第3、市が依って立つところの、条例廃止の論拠はきわめて薄弱である。
- 地域医療審議会の答申(2022年11月)は、最初から『条例廃止』に持っていくものであった。審議は、最大の当事者である公害被害者の代表を委員に入れず、また公害関係の専門家も、さらに公害行政に携わる者の意見も聞かず進められた。しかも、部会委員全員の「総意」であるべきところ、途中意見を異にして参加をしなくなった委員が出て「総意」の文言は入らなかった。答申のなかで、気管支ぜん息医療費助成制度に関する意見は6項目であるが、このうち既存患者の配慮にふれた部会長の意見を除く他の5項目は、すべて「アレルギ-を考える母の会」の委員の発言である。公害の知識もない、特定の委員の発言のみで答申をまとめておりまったく不公平・不公正極まりない。
- 川崎市のぜん息患者が他都市と比較し少ない証拠として、例えば10年前の環境再生保全機構の調査を引用しているが、「インタ-ネット上の20-40歳のモニタ-会員」を対象とした小児や41歳以上の成人は含まない者であったり、環境省の疫学調査(サ-ベイランス調査)を無批判に使用している。この調査は分析に問題点があり、住民側の専門家の解析によれば調査地域となった幸区の3才児及び6才児のぜん息と、SO2・NO2・SPMのすべての物質との間に強い相関・有意な関係があることが立証されている。こうした資料を市に提供しても、具合が悪いためか完全に無視し頬かむりしている。
- 条例廃止の根拠として、「他のアレルギ-疾患との公平性」を掲げているが、これは本質的に原因を問わない社会福祉・社会保障の立場からの議論である。公害を原因とするぜん息においては、全く筋違いの議論であり本質論を避けたものと言うほかない。川崎市は、これまでの公害及び公害患者発生責任の一端があることをもっと自覚すべきである。実際、市は、成人ぜん息患者医療費助成制度の財政支援を、公害健康被害予防事業として、国に求めてきたではないか。
第4、今年2月から3月にかけてパブリックコメントが実施され、先日その取りまとめが発表された。そのうち、医療費助成等の制度見直しに関する意見数は3.351件であったが、このうち賛成が2件、賛否に関わってないのが3件で、残りの3,346件はすべて反対の意見(99.9%)であった。市長は今月5日の記者会見で、「賛否を問うものではない」としているが、これは詭弁である。賛成であろうが反対であろうが、パブリックコメント手続き条例第8条が「当該策定機関に対し提出された当該政策等の案についての意見を十分考慮しなければならない」と規定しているように、結果を尊重しなければならない。
しかも、反対意見を受け取った市が、これは「案に対する要望」だなどとして市民に背を向けるようでは市民自治の破壊である。