此の度の同制度の見直しについては、すべて健康福祉局サイドから、アレルギ-疾患としてのみ実施されており、公害防止と公害医療の立場からの議論が皆無といってよい。これは、同制度創設とその後の歴史・住民運動の取組みを無視するものであり、同制度を廃止するという「今後の方向性」についてはとうてい容認することはできない。
(1) 川崎市が最大限尊重するとしている、地域医療審議会答申(2022/11/24)について
まずこの答申の特徴は、他の公害対策などで見られたものと大違いで各部会委員の発言を列挙したものであり、それゆえあえて「総意」なる用語は使用していない。そして、「気管支ぜん息に係る医療費助成制度に関する主な答申内容」として、(ア)から(カ)まで6項目が掲げられているが、このうち既存患者の配慮にふれた関口部会長の(イ)の他の5項目は、すべて「アレルギ-を考える母の会」の園部委員の発言である。一方、公害病患者と家族の会やその推薦する専門家を入れずにしておいて、『何の資格もないアレルギ-の母です』と自己紹介する委員の発言ばかりを採用する答申は不公正の極みであり、これだけでも制度の廃止を企むことは大問題である。しかも、(カ)の環境再生保全機構の調査結果云々のうち、「気管支ぜん息に特化して助成すべきエビデンスはない」(ゴシック)との発言は会議録にもなく、これが事務局の挿入とするなら、このこと事態答申の信頼性に関わる重大問題である。これでどうして、「答申について物申す立場にありません」と言えるのか。
(2) 健康被害をどう見るか
「成人ぜん息医療費助成制度の受給者数は増加傾向にある」と認める一方、「本市における患者数は近年ほぼ横ばい」としているが、これが制度廃止の根拠とはなりえない。制度発足当初より患者数が続出し高止まり(?)していることが問題なのだ。さらに言えば、【添付資料①】にあるように、小児は近年減少傾向だが成人は年々増加してきている。また、10年前の環境再生保全機構の「成人ぜん息の有病率とその動向に関する研究」を引用し、他の公害防止事業助成対象地域と有病率に変わりはないとしているが、この調査はそもそも「あらかじめ登録されているインタ-ネット上の20-40歳のモニタ-会員」を対象としたもので、小児や41歳以上の成人は含まず、こうした不完全・欠陥のある調査を制度廃止の根拠に使用すべではない。
そして何よりも重要なのは、川崎市が疫学調査を実施して本当に大気汚染と健康被害に相関関係があるのかないのかを立証して見せることである。その証拠もないのに軽々に制度の見直しをやるべきではない。答申で取り上げている環境省のサ-ベイランス調査に関して云えば、我々がすでに指摘しているように、調査地域となっている幸区の3才児及び6才児のぜん息と、SO2・NO2・SPMのすべての物質との間に強い相関・有意な関係があることが立証されている。 【参照・添付資料②】「エビデンス」は我々の側にある。
(3) 改悪された「環境基準達成」が全てではない
最近川崎市は、公害は改善あるいは無くなったかのような宣伝をしているが、全くの間違いである。ぜん息との関係でいえば、二酸化窒素については、市の環境目標値(日平均値0.02ppm)を全測定局で達成してから制度の見直し問題を議論してもらいたい。財界の圧力で捻じ曲げられた新環境基準(日平均値0.04~0.06ppm)では、とうていぜん息の発生を止めることはできない。また、微小粒子状物質は呼吸器だけでなく循環器等にも影響を及ぼしているが、そもそも環境基準事態が甘い。だから東京都(年10μg/m3)のように、さらに厳しい目標値を掲げている自治体が生まれているのだ。一昨年改定されたWHOの指針値についてどう考えているのか。市民の生命を守ることが自治体の責務なのだから、当然これをも考慮すべきである。
周知のように、成人ぜん息患者医療費助成制度も小児ぜん息患者医療費支給制度も、公害医療救済制度として始まったものである。これは紛れもない歴史的事実である。前者については後年、アレルギ-疾患対策基本法に気管支ぜん息が盛り込まれたことに便乗して性格を変えたようであるが、本来の史実を無視するものであってはならない。後者については、「昭和47年4月に公害病救済制度とは別に、小児ぜん息患者対策の一環として」制度を開始したとしているが、ここで公害病救済制度とは前々年始まった国の公害健康被害医療救済制度のことであり、でなければ何故公害保健課公害医療係が小児ぜん息患者医療費支給制度を管掌していたのか説明がつかない。対象年齢を15歳以下から20歳未満に拡充した年月は、国の公害指定地域の解除に合わせたものであった。
(4) 「今後の取組の方向性について」
制度の廃止と引き換えに「正しい知識の普及啓発及び発症・重症化予防等のための取組の充実や患者の状況に応じた適切な医療供給体制の整備を進める」としている。ここには全く公害対策がない。もっともっと公害対策を進めなければ、ぜん息患者を減らすことも無くすこともできないのではないか。アレルギ-疾患対策基本法第15条には、「生活環境の改善」その最初に「大気汚染の防止」、また第5条では「自主的かつ主体的にその地域の特性に応じた施策の策定」を規定しているが、今度の制度の見直しでは答申を含め、川崎市はこれを完全に無視している。ここにも、不公正な審議会構成と偏った審議のあり方が表れている。
(5) 「成人ぜん息患者医療費助成制度の助成額等が増加する中、他のアレルギ-疾患との公平性の確保 が求められている」としている。何か成人ぜん息患者が悪いような印象を受けるが、他の制度と根本的に異なるのは、第1に本質的に加害者による救済制度に準じた制度であること、第2に、住民運動及び公害裁判の闘いの中で作られてきた制度であること等の違いである。川崎市も、これまで公害発生責任の一翼を担ってきた。こうした違いに理解が及ばない者が、軽々に「公平性の確保が求められている」等と云うものではない。しかも、川崎市は国に対して直接、成人ぜん息患者医療費助成制度の財政支援を、公害健康被害予防事業として、また環境省に公害補償地域(大気系)連絡会議等を通じて求めてきたではないか。助成金が年々増加しているグラフを載せ、だから行財政改革をするのだとしているが、本来公害被害救済制度はこれになじまない。
(6) その他、「アレルギ-疾患対策の今後の方向性(案)」のうち、方向性Ⅰを(3)生活環境の改善等では、食品表示やダニ・カビ対策、受動喫煙に続けて、大気の環境保全のため「川崎市大気・水環境計画」に基ずく取組を推進していくとしているが、この計画の本質はこれまで進めてきた取り組みは今後も継続するとしているものの、「市民実感の向上」、要するに視程調査などで大気は良くなったとの意識を市民に持たせることを基本にしている。このような計画では、今後もぜん息患者は減らないのではないか。市民が苦しむだけである。 【参照・添付資料③】
【添付資料】
① 市内のぜん息患者数の推移 (市医師会の実態調査をもとに作成)

| (備 考)1972/4 小児ぜん息患者医療費支給制度施行 (12才未満)1988/3 同上 (20未満)1991/2 ぜん息等4疾病医療費助成制度施行1999/5 上記制度の拡充(居住年次)2007/1 成人ぜん患者医療費助成制度施行 |
② 環境省の「大気汚染に係る環境保健サ-ベィランス調査報告」平成29年度(2017年度) に関する検証結果 2020年7月 大阪から公害をなくす会「サ-ベィランス」検証プロジェクト
別添のとおり (一部抜粋)
・『全地域の経年的・総合的解析で、すべての大気汚染物質とぜん息有症率との間に有意な非常に強 い相関関係がある。』
・『調査対象地域ごとの解析でも、多くの地域で有意な正の相関関係があることが示された。』
・川崎市幸区の調査で、6才児はNO2・SO2・SPMと有意な相関関係があり、3才児ではNO2と有意な強い相関関係、SO2・SPMと有意な相関関係がある。
③ 川崎市/ 大気・水環境計画 55頁より

